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神保 幹夫

-これまでの探検-
氷渡洞潜水探検は1994年第1次隊が龍の背本洞最奥部龍堰の湖の第1サンプ(水深9.6m長さ33m)を初踏破し、1996年第2次隊は第1サンプから約200mドライケイブを進み第2サイフォン入り口までで引き返した。1997年第3次隊は第2サンプ(水深7m長さ12m)、第3サンプ(水深7m長さ33m)を踏破し第4サンプ入口迄到達、第1サンプから554m進んだ。
1998年の第4次隊は氷渡洞主洞最奥部を目指して潜水探検を実施した。

-2月25日-
永遠の間は以前よりも小さく感じられた。天井から下がる無数のつらら石。水面で満たされた小部屋ほどの空間はライトの光が水面に反射し低い天井が照らされ明るくなった。振り返ると狭いパッセージの奥からランプの光りがゆれた。稲垣そして北田が永遠の間にたどり着いたのだ。今年はこの2名の日本人ダイバーが参加となった。彼等は昨年からラマールに師事し1年の間にそれぞれがダイビングのトレーニングを続け、今回の氷渡洞に臨んでいた。しばらくしてラマールとピーターも到着し5人全員がお互いを確認した。私はヘルホールまで引き続きトップを行くようにラマールから指示を受けると、メインライトを点灯しサンプ2への潜降を開始した。11:30、ヘルホール到着。龍堰の湖をエントリーしてから40分が経っていた。

ヘルホールは崩落した礫岩が洞幅を埋めており、3m以上の高さで進路を塞いでいる。サンプ3はこの崩落の奥にあり、我々は足場の悪い礫の斜面を右壁に沿って越えていかなければならない。崩落を越えるとわずかな洞の横断面があり、極端にルートは狭くなる。そこからサンプ3の水面までは4mほどだが、岩盤の天井は低く頭3つほどで、床は先端の鋭い石灰岩の溶け残りと巨礫、そして水の流れもある。そのため安易に匍匐前進するとドライスーツに穴をあける始末で、器材の重量と全体重を四肢で支えて慎重に進まなければならない。ヘルホールはルート中で最大の難所と言える。実際、昨年も撮影器材の損傷やタンクバルブを割ったり、スーツに穴をあけたりといくつものトラブルがここで発生した。床の巨礫や危険な溶け残りを取り除くなどのルート工作が必要な地点であり、ヘルホールのルート工作無しにこの先の探検の効率化は考えられない。全員がヘルホールを越えサンプ2に到達するまで20分を要し、ラマールとピーターはここでの撮影に10分以上を割いた。

私にとってサンプ3から先は未知の領域である。ラマールは、私にここから稲垣とバディーを組むよう指示し、ピーターと北田と共にトップを行った。この先に昨年ラマールらが発見した第3の空間を見られるのだという期待を胸に、サンプ3に潜行した。昨日の潜水と、3人が潜行している影響で水中はひどく濁っており視界はほとんど無かった。ガイドラインの傾斜が上向きに変わったところで水深計を確認すると5.4mを指していた。そこから透明度は完全になくなりライトが水中に舞うシルトに乱反射してぼうっとした赤い光りが見えるだけだ。レギュレータからの呼吸の感覚で深度が浅くなっているのが分かる。やがて空間に頭が出るとライトの光りに白く映し出された見事なフローストンが視界一杯にとびこんだ。第3の空間、フローストンキャニオンである。フローストンキャニオンは西北西に伸びる164mの回廊状の空間で洞の幅は2〜4mほどあり、天井はどこも20m以上はあるであろう。両壁はほぼ垂直で天井付近から床まで見事なフローストンが多く成長している。乳白色のフローストンに光りを当てると結晶に再帰反射して銀粉をまぶしたようでとても美しい。これまでの空間と比較すると、まるで別世界の印象を受ける。床は大きな石灰岩の溶け残りと砂で、それらを避けるようにして浅い水の流れが奥から続いている。所々崩壊した石柱がローマの遺跡のように埋もれているのがある。ここの美しさを見ると、これまでの疲労が消え新しい力が沸いてくるのが分かった。

稲垣と2人で奥へ3人を追った。第4サンプ手前で合流。12:35小休止をとる。携帯食を摂りながら全員の顔を見るとすでに疲労の色がうかがえた。興奮して浮き足立っているのはどうやら私だけのようだ。それもそのはず、私を除いた4人は2日目のプッシュであり、昨日の疲労が重なっているのであろう。氷渡は潜水するよりも器材を背負って移動しなければならない距離の方が何倍も長いので、体力勝負のところがある。この先ルートをプッシュするラマールとピーターの体力的な負担を減らすため、彼らをいかに楽に最奥部まで送れるかがサポートダイバーの役目であろう。しかし実際は自分の器材を担いで彼等についていくことで精一杯なのである。この場にいながらも、自分のすべき役割に対して非力であるのと、あまりにもそれについて段取りがされていないことに自分のことながら腹立たしかった。

我々は再度の器材チェックを行った。水中と陸上の移動を繰り返すため、その度にタンクバルブの開閉をして貴重な呼吸ガスの不意の損失を防いでいたので、潜水を開始する前にバルブを開きシステムが完全に機能するか確認する必要があった。12:50、昨日ラマールとピーターが新たにルートを発見した第4のサンプへ潜水を開始した。このサンプはルート状のパッセージで途中にいくつかの水面があり、完全に水没している部分の距離は長くはなかった。いくつかの水面の上には比較的広い空間があり、水面上の別のパッセージでそれぞれがつながっているようであった。サンプの水深は10m以内で、ラマールは深度7m〜2mの間にラインをフィックスしていた。約90mの潜水で第4のサンプは終わり、洞床の浅い流れに逆らって20mほど歩くと第5のサンプの入り口が見えた。ここが今回のアタックの取り付きとなる。昨日ラマールとピーターはここから一度潜水したものの、約20m進んだところでラインが無くなり引き返してきていた。第5サンプの水は昨日の濁りが完全にとれていなかった。しかしながら西方向の壁の水面下に水中洞が続いているのが分かった。水面に足を踏み入れると、にわかに濁りが足下から湧き上がった。この先の洞の奥からこのサンプに細かいシルトが供給され、湖底を被うように堆積している様子を私は想像した。それでも私はこのサンプの先を探検してみたかった。13:18、ラマールとピーターは第5のサンプにアタックを開始した。サポートダイバーの我々3人は待機中ほとんど言葉を交わさず彼等の帰還を待ち続けた。

13:54、ラマールとピーターは再びこの水面にたどり着いた。「つぎがあった」。ピーターはそう言って疲れた体を水面から引き上げた。今年も最奥部を極められなかったのだ。我々は帰路についた。私はしんがりを勤め、透明度を全くなくしたサンプを潜り続け、サンプ1まで1時間ぶっ通しで歩いた。そして14:58、龍堰の湖の水面に無事たどりつくと地上サポート班全員の顔に迎えられた。
地上まではさらに2時間かかった。探検隊全員が重い器材を担いで長い横穴を延々と歩いた。

龍堰の湖から遡上して氷渡洞の最奥部に到達するという当初の目的は実現できなかった。またこの探検で体力、時間、呼吸ガスの量、ルート整備、スーツの耐久性、サポート体制など多くの問題を残した。しかし、長さ約190mの第5サンプを発見し、新たに268.8m(龍堰の湖第1サンプからの合計822.8m)の測量データを得ることができた。これで氷渡洞の総延長は3777mになったことになる。そして洞口から最も遠い距離にある、第5サンプの奥には崩落と縦穴で構成された空間があり、さらに第6のサンプが西方向へ続いているのである。

測量団体:
立命館大学探検部
関西大学探検部
日本大学探検部
秋田大学ケイビング部
Japan Cavers Club II

編集責任者:JCCII 内田豊一
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